2016年1月1日金曜日

お弁当

岡野さま

あけましておめでとうございます。
すっかり冬ですね。職場は雪国なので、11月ごろから積雪を覚悟して日々を過ごしていたのですがまったく積もらず、とうとう雪景色を見ないまま関東に帰省することになりました。

遠足の子どもたちと電車で遭遇するのは私も嫌いではありません。自分もそうだったなと思うからです。幼稚園のとき、ドアが開いて閉まるまでの短い時間で皆がちゃんと乗れるように、電車に乗る練習をして、遠足に臨んだ気がします。それで「よみうりランド」の駅で降りて、遊園地に行くための長い長いエスカレーターに乗ります。肝心の遊園地での記憶はなくて、ただそのエスカレーターの場面だけを覚えています。終着地点は見えず、永遠に続くかのようにその先は森の中に消えていて、まさに異世界への入口だったなあと思います。

そこでお弁当を食べた記憶もやはりないのですが、幼稚園では給食がなくお弁当だったので、そちらの記憶は鮮明に残っています。私は、お弁当の時間が本当に憂鬱でした。お弁当を全部食べられないことで先生に怒られ、食べ終わるまで席に残されたからです。毎日、皆が昼休みで遊んでいるなか一人で冷たくなったお弁当を前に途方に暮れるしかなかった。「どうして残すの」と怒られるのですが、なぜ食べられないのか自分でもわからないのです。特段きらいな食べものが入っているわけでもないのに。食べなきゃいけないと思えば思うほど胸がきゅーっとなって喉がつかえて、それ以上食べられなくなってしまう。でもその頃はまだそんな状況を説明できるだけの語彙もなく(そのことも焦れったくて悔しくて)、ただただ黙って泣いていました。

その後、私は親の都合で引越しをしました。新しい幼稚園は給食でした。そこでもやはり全部食べられません。また怒られるのだろう。それでも勇気を振り絞って先生に「食べられません」と言いに行きました。怒られに行くなんて恐怖以外のなにものでもないけれど、申告しなければ帰してもらえないと思ったからです。先生は私をじっと見つめ、そして意外な行動に出ました。抱きしめたのです。私は驚きました。怒られこそすれ、どうして抱きしめられるのだろう。先生は何も言いません。ただ強く、強く私を抱きしめました。私は絞り出されるように、ぼろぼろ、ぼろぼろ泣いてしまいました。
次の日から、私は少しずつ元気になっていきました。相変わらず給食は全部食べられませんでしたが、憂鬱ではなくなった。胸のつかえがとれ、食べることが恐怖ではなくなった。先生に救われたんだなあと思います。

誕生日、おめでとうございます。
おいしい御馳走とともに素敵な誕生日とお正月を過ごされますよう。

藤 明日香

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